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自動運転と製造物責任等

自動運転車が市場投入され、「自動運転モード」時に起こった事故については、誰が責任を負うべきなのでしょうか。

最近注目を集めている自動運転ですが、限られた道路環境下では自動運転に任せられるレベルには数年後には可能という新聞記事も出ていました(ただし「完全」自動運転の実用化には慎重とのこと)。自動運転が本格導入されれば、事故発生時の法律問題については何か変わるのでしょうか。

1.責任の所在が変わる可能性(「運転者・運行供用者」から「メーカー」へ)

事故に遭った時、被害者は誰に対して、損害賠償を求めることができるのかというと、現状では車の運転者または車の所有者です。相手方が仕事中の事故の場合には、相手方の勤務先を請求先として選ぶかもしれません。

しかし、製造物責任に基づき、自分の車のメーカーや相手方の車のメーカーを訴えることは現状ではあまり多くないと思います。交通事故の多くは、車の欠陥よりも、運転手の不注意により発生しているからです。

車が自動運転で制御されるようになり、人間が何も運転操作をしなくなると、交通事故が減るとは予想されます。しかし、それでも発生した事故については、「運転手の不注意が事故の原因」とも考えにくくなります。そして「この事故は誰の責任か?」となれば、それは自動運転のプログラムなどの車側の責任、製造物責任の問題なのではないかと考えられるようになると思われます。

2.現在の法的枠組み(記事作成:2017年7月)

現在は、事故時の責任追及の場面では、不法行為(民法709条)、運行供用者責任(自動車賠償責任法3条)、使用者責任(民法715条)が法的根拠に使われるケースが多いと思います。そして、自動車賠償責任法3条では、被害者は、車の運転中に事故が発生したことをまずは立証すれば足り、車に欠陥がなかったこと等は相手方が立証責任を負うとされています。他方で、製造物責任の場合、被害者側が製造物に欠陥があったことを立証する必要があります(製造物責任法3条)。

立証責任の負担や車の「欠陥」に関する調査検討の負担からすると、自賠責法に基づき運行供用者に責任追及をするほうが、製造物責任に基づきメーカーに責任追及するよりも容易であるという状況であるといえます。

3.自動運転における損害の負担者

それでも自動運転が一般化してくると、「運転手の不注意が事故の原因」というよりも自動運転の責任が大きいとして、交通事故の被害者が自車または相手方の車のメーカーに責任追及することが増えてくると思います。また、自賠責法等で加害者とされた側も自動運転の設計等に問題があったとして、メーカー側に損害の負担を求めるようになることがあるかもしれません。そうして、立証責任の負担等の問題はありますが、被害者の損害を誰が負担するのかという点において、製造業者の存在感が増してくることが予想されます。

4.被害者側の選択肢も増える

シェアエコノミー的に車を所有もしておらず、自動運転の車に乗って移動しているだけというのであれば、それは一人で乗っていたとしても、バスやタクシーの乗客と似た状態です。この場合、自分が乗っている車の運行主体に損害賠償請求をすることも考えられます。

被害者としては、相手の車の運転手、所有者、使用者、相手の車の製造者、自分の車の製造者、自分の車の運行主体等のうち、誰に責任を追及するのかについて、諸事情を考慮して、最善の選択をする必要が出てきます。

5.自動運転における「欠陥」の水準

製造物責任の追及の場面では、「欠陥」の有無が問題とされます。「当該製造物が通常有すべき安全性」(製造物責任法2条2項)とはどの程度なのでしょうか。何をもって人工知能、自動運転に欠陥があるといえるのか。超人的な反射神経や、それ以外に避けようがないというようなピンポイントの危機回避能力を合わせ持たなければならないのか、それとも一般的なドライバーと同じ程度の運転技術があれば良いのか。議論があるところだと思います。巨額な責任追及が容易に予想されるので、メーカーとしては、厳しい判断にも耐えられる段階になってはじめて完全自動運転車を市場に投入するのでしょう。

将棋や囲碁のAIが人類を凌駕したように、運転技術でも人間を超える人工知能はいずれ出てくるでしょう(カーレースなどで自動運転車が人間を超え始めれば、実用化も近いかもしれません)。人間が運転するよりも遥かに安全で、ほぼ事故がないという自動運転が登場することを願っております。