親会社の株主が子会社役員を訴える「多重代表訴訟制度」

平成26年の会社法改正により導入された「多重代表訴訟制度」について説明いたします(*1)。

1.多重代表訴訟制度(特定責任追及の訴え)とは

多重代表訴訟(特定責任追及の訴え)とは、平成26年会社法改正により導入された制度であり、親会社の株主が子会社役員に対して責任追及の訴えを提起することを可能とする制度です(会社法847条の3)。

つまり、株主代表訴訟を子会社役員に対してもできるようになったということです。

これまで親会社株主が子会社役員に対して会社法に基づき直接訴えを提起する制度的手当ては基本的になく、子会社の事業活動を直接に監督・是正する権限はありませんでしたが、今回の多重代表訴訟制度の導入により親会社株主が直接子会社の役員を訴えることが可能となりました。

なお、親会社株主といっても、「最終完全親会社等」の株主に限定されています。
「最終」かつ「完全」の親会社でなければならないため、親会社株主は直接・間接に子会社の持分を100%保有している最上位の親会社の株主に限られます。
完全親会社でもさらにその親会社が存在するのであれば「最終」親会社でありませんし、100%の持分を保有してなければ「完全」親会社ではありません(詳細は脚注*2を参照)。

また、多重代表訴訟の対象となる子会社役員とは、最終完全親会社に直接・間接に100%の持分を保有されている法人の役員です(*3)。

2.多重代表訴訟提起の要件と流れ

(1)株主側の要件、子会社側の要件について

多重代表訴訟は、どんな株主でも提訴できるわけではありません。提訴できる子会社にも限定があります。具体的には、以下の要件をみたす必要があります。

  1. (株主側の要件)100分の1以上の議決権(or発行済株式の100分の1以上の数の株式)を有する最終完全親会社の株主であること(法847条の3第1項)
  2. (子会社側の要件)対象子会社の株式の帳簿価額が親会社の総資産額(*4)の5分の1を超えていること(法847条の3第4項)

原告株主は100分の1以上の議決権を有する程度に親会社と利害関係が強い必要があり、子会社も親会社の総資産の5分の1以上の株式の帳簿価額を有する重要な子会社ということで、ある程度絞りがなされています。

(2)手続の流れ

多重代表訴訟を提起する場合、基本的には以下の流れになります(847条の3第1項、第8項)。

①提訴請求(=親会社株主が親会社に対し子会社役員の責任を追及する提訴の請求)→②60日以内に提訴しない理由を通知→③提訴

3.対応など

企業(親会社)としては、グループ会社で多重代表訴訟の対象となる子会社があるかどうかを確認し、必要であれば子会社役員のD&O保険加入を検討する対応などが考えられます。

株主としては、子会社で不祥事等発生時には子会社役員に責任追及をするというダイレクトな手段が可能となったといえます。しかし、最終完全親会社に限られていること、少数株主要件・子会社の重要性要件が設けられていることから、特定責任追及の訴えが使えないこともあるでしょう。この場合は親会社取締役に対する責任追及することが考えられます。

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*1 会社法改正については多数解説書も出版されていますが、インターネット上では東京商工会議所のまとめが端的でわかりやすいと思います。
・会社法改正のポイント(東京商工会議所、PDF):https://www.tokyo-cci.or.jp/file/kaisyahopoint.pdf
*2 親会社でも「最終完全親会社等」に限られます(法847条の3第1項柱書)。「最終完全親会社等」は、子会社の株式を直接・間接的に100%保有している最上位の親会社です。最終かつ完全でなければならず、親会社であってもさらにその親会社が存在する場合には「最終」親会社ではありません。株式を100%保有していなければ「完全」親会社ではありません。厳密にいうと、「最終完全親会社等」とは、「当該株式会社の完全親会社等であって、その完全親会社等がないもの」をいいます(法847条の3第1項柱書かっこ書)。「完全親会社等」とは、①完全親会社と②株式会社の発行済株式の全部を他の株式会社及びその完全子会社等(株式会社がその株式又は持分の全部を有する法人をいう。)又は他の株式会社の完全子会社等が有する場合における当該他の株式会社(完全親会社を除く)をいいます(法847条の3第2項)。そして、「完全親会社」とは、「特定の株式会社の発行済株式の全部を有する株式会社その他これと同等のものとして法務省令で定める株式会社」をいいます(法847条の2第1項柱書かっこ書)。そして最終完全親会社は「株式会社」に限定されているため、株式会社以外の他の会社形態は含まれませんし、外国法人も含まれません。
*3 子会社の役員といっても、「完全子会社等」の役員に限られます(法847条の3第4項)。「完全子会社等」とは、「株式会社がその株式又は持分の全部を有する法人」をいいます(法847条の3第2項2号かっこ書、同条第3項も参照)。親会社に直接・間接に100%株式を保有されている法人です。
*4 総資産額の計算の仕方は、会社法施行規則218条の6に定められています。具体的には、以下の①から⑧の合計額に、⑨を減じた額です。①資本金の額、②資本準備金の額、③利益準備金の額、④法446条に規定する剰余金の額、⑤最終事業年度の末日における評価・換算差額等に係る額、⑥新株予約権の帳簿価額、⑦最終事業年度の末日において負債の部に計上した額、⑧最終事業年度の末日後に吸収合併、吸収分割による他の会社の事業に係る権利義務の承継又は他の会社(外国会社を含む。)の事業の全部の譲受けをしたときは、これらの行為により承継又は譲受けをした負債の額、⑨自己株式及び自己新株予約権の帳簿価額の合計額。