図面・仕様変更の追加費用請求戦略|製造業の『持ち出し』を解消する取適法対応ガイド

図面Rev変更、追加指示による「持ち出し」に悩む製造業経営者・担当者の皆様へ。2026年施行の取適法は、協議を強制する「手続的権利」と追加費用を請求する「実体的権利」の2層で、貴社の正当な対価を守ります。元メーカー法務部の弁護士が、契約締結から事後請求まで、時間軸に沿った実践戦略を解説します。

1. 導入:現場で繰り返される「持ち出し」の構造と、2026年の歴史的転換

「仕様書にはこう書いてあるが、実際にはここまでの対応が必要だ」 「図面の行間を読めば、この工程が不可欠なのは『現場の常識』ではないか」 「この機能も実装してほしい。そのうえで納期を2か月短縮してほしい」

開発・製造の最前線において、当初の想定と実態の乖離は日常茶飯事です。しかし、多くの中小受託事業者が直面するのは、なし崩し的に仕様変更や追加対応を求められながら、それが「当初の契約範囲内」として飲み込まれ、対価を請求できずに「持ち出し(赤字)」となってしまう過酷な構造です。

なぜ、現場の懸命な努力や技術的工夫が正当に報われないのでしょうか。

それは、交渉力が弱いからでも、力関係のせいだけでもありません。真の原因は、現場における「取引の実態」を、第三者にも伝わるような「法的エビデンス」へと正しく翻訳できていないことにあります。

2026年にルールが変わった

かつての旧下請法下では、曖昧な仕様変更に伴う価格据え置きに対しては、「買いたたきの禁止」として主張することは可能でした。しかし、発注側が協議に応じない場合や買いたたきの立証が困難な場合には、実質的に「泣き寝入り」に近い状態になるケースも少なくありませんでした。

2026年1月1日に施行された「取適法(中小受託取引適正化法)」は、この状況を変える新たな武器を貴社に与えました。
※取適法の適用対象は、資本金・従業員数などの要件を満たす中小受託事業者に限られます。詳細は末尾の【補論】をご参照ください。

取適法は、仕様変更に伴う追加費用をめぐる請求権を、2つの層で保護しています。
以下の図をご覧ください。

取適法の2層構造:協議の強制(第1層)と追加費用請求(第2層)

第1層で交渉のテーブルにつかせることを強制し、第2層で具体的な金額を請求する——この順序が、中小受託事業者の正当な権利を実現する戦略的な道筋です。

つまり、取適法は「協議の場を強制的に作る仕組み」と「追加費用請求を正当化する法的基準」の両方を、中小受託事業者に新たに提供したのです。

第1層:交渉のテーブルにつかせる権利

  • 書面交付の義務(4条・7条): 発注内容や変更内容を書面(電磁的記録を含む)で交付することを義務付けます。口頭の曖昧な指示を「証拠」として固定させるための武器です。
  • 協議拒否の禁止(5条2項4号): 追加作業が発生した際に委託事業者が「代金決定の協議に応じないこと」を禁止行為として明確に規定しています(*1)。「一括発注だから」等と協議を拒むことは明確な法違反です。

第2層:実際にお金を請求する権利

  • 不当な内容変更の禁止(5条2項3号 【新規追加】):中小受託事業者に責任がないにもかかわらず、発注者が給付の内容(当初の契約で定めた内容)を変更させ、または給付を受領した後にやり直しをさせることにより、中小受託事業者の利益を不当に害することを禁止しています(*2)。この規定は、私法上の請求権を直接創設するものではありませんが、費用負担なしに仕様変更や追加作業を強制することを違法とするものであり、契約の合理的解釈の指針となり、「実質的なコスト増」を価格に反映させるための交渉根拠となります。昨今の原材料費高騰に伴う価格転嫁の要請と同様の構造です。
  • 契約条項の活用: 追加作業につき当事者の合意があれば、もっとも強い根拠となります。
  • 商法512条(最後の砦): 契約に明記がない場合でも、質的・量的変化があれば相当な報酬を請求できます。

どの根拠が最も有効かは、契約書の内容、証拠の状況、相手方の対応等により異なります。当事務所では、個別の事案を詳細に分析し、最適な法的戦略を構築します。

「法的分析は、あくまで法的支援の『出発点』に過ぎません」

私は、東証プライム上場メーカーの法務部時代に培った「図面と格闘し、技術を理解する視点」を活かし、曖昧な仕様の行間に埋もれた貴社の正当な権利を掘り起こします。最新の取適法と、裁判例に基づく「質的・量的変化」のロジックを融合させ、貴社の技術的貢献を「正当な利益」へと変えるための戦略を構築します。

2. 分析:なぜ「契約書の文言」だけでは武器にならないのか

契約書は「結論」であり、図面は「生きたプロセス」である

取引の核心は、契約書の行間、すなわち「仕様書」や「図面」の中、あるいは、「メールのやり取り」の中にこそ眠っています。例えば、発注側から送られてきた図面のRev(改訂)が一つ進むだけで、使用する治具が変わり、加工工程が根本から組み直しになることは珍しくありません。契約で決めた代金は仕様が変われば変わり得るのであり、実務においては「その図面変更が、当初の合意に記載された内容を実質的に逸脱しているか否か」こそが真の争点となります。

しかし、多くの中小受託事業者は、この図面Rev変更を「契約の範囲内の微調整」として受け入れてしまいます。これが「持ち出し」の温床です。

「現場の常識」と「法的証拠」の決定的な乖離

「この工程は図面から読み取れる当然の範囲」
「業界では常識」
「言われなくてもやるべき」

これらの「現場の常識」は、残念ながら法廷では通用しません。

東京地裁令和5年8月29日判決は、システム開発契約において、「開発計画書に記載されていない作業は、原則として契約範囲外」と明確に判断しました。この考え方は、製造業における図面・仕様書の解釈にも応用できます。契約書・図面・仕様書に明記されていない作業は、原則として「契約範囲外」と推定されるのです。

図面がRev.1からRev.2に変わった瞬間、それは取適法第4条・第7条でいう『給付の内容の変更』に該当します。この時点で書面交付がない、あるいは追加費用の協議に応じないことは、第1層の権利を侵害していることになります。

例えば、単なる『寸法変更』であっても、それにより加工方法が切削から研削に変更を余儀なくされ、歩留まりが大幅に低下する場合。これは量的な変化を超えた、明確な『質的変化』です。

「当初契約の範囲」を立証するための4つの証拠

第2層の権利(実際にお金を請求する権利)を行使するには、「当初契約の範囲を超える」という事実認定が不可欠です。

そのために必要な証拠としては、以下が挙げられます。

1. 図面Rev履歴

Rev.1から最新版までの変遷を記録。仕様変更の「物理的な証拠」となります。

2. 工程表の変化

追加工程の発生タイミングを特定。図面変更に伴う「作業の不可欠性」を証明する技術的資料となります。

3. メール・指示書

発注側からの具体的指示を時系列で保存。「勝手な追加ではない」ことを示す、意思決定の記録です。

4. 作業時間のログ

誰が、何に、どれだけの時間を費やしたかを記録。商法512条に基づく「相当な報酬」を算出の核となります。

弁護士の役割:散在する証拠を『法的ストーリー』へ

バラバラに存在する図面、工程表、メール履歴。これらを時系列で繋ぎ、「質的・量的変化」という法理の言葉へと翻訳することが私の役割です。メーカー法務部時代に培った現場感覚を武器に、貴社の技術的貢献を「正当な対価」へと変えるための法的ストーリーを構築します。

3. 実践:時間軸で見る追加費用回収の戦略

仕様や図面改訂、追加指示による「持ち出し」を解消するには、いつ、何をするかが決定的です。「予防」、「初動対応」、そして「事後請求」。どの段階でも適切な対応により権利を実現できる可能性があります。

本章では、最新の取適法を武器に、権利を実現するための具体的アクションを解説します。


Phase 1 【契約締結時】予防こそ最大の武器

「事後請求」は、たとえ取適法があっても追加作業の範囲・金額の立証に多大な労力を要します。最も大事なのは、契約の入口で「仕様変更=有償」のルールを確立しておくことです。

「適切な条項(断れない条項)」の設計と実装

取適法が施行された今、発注側が一方的に不利な条件を押し付けることは、行政リスクを伴います 。この機会を活かし、以下のような条項を組み込むこと考えられます。

  • 仕様変更時の費用負担調整ルール:仕様書や図面の改訂が発生した場合、当初注文書の範囲を超える部分は追加工数に応じた費用を別途精算する旨の条項
  • 改訂時の協議義務:図面改訂が発生する都度、両者協議の上で、当初の給付範囲を超えるか否かを確認し、代金を再調整する旨の条項
  • 工数増加の価格調整メカニズム:当初見積もりから工数がX%以上増加した場合の価格調整メカニズムの構築

Phase 2 【仕様変更発生時】初動での証拠化が勝敗を分ける

契約書に明記がなくても、仕様変更が発生した段階でアクションを起こせば、後の請求可能性が高まります

①取適法4条に基づく「書面交付」の要求

口頭で「ちょっとここを変更してほしい」と言われたら、できるだけその日のうちに、取適法4条に基づき、変更内容を記載した書面の交付を求めるメールを一本送ります。これだけで、発注側の書面交付義務を履行させ、「有償の変更である」という共通認識を植え付けることができます。

②「着手前」の暫定見積り提示

作業を開始する前に工数の暫定見積もりを提示し、取適法第5条に基づき協議を求めます。これにより「無償で対応するだろう」という相手方の誤解を防ぎ、後の「相当な報酬」算定の強力な根拠を作ります。

③協議拒否に対する取適法違反の可能性の指摘

「一括発注だから追加は出さない」という門前払いには、取適法5条2項4号(協議拒否の禁止)を毅然と引用します。もはや「お願い」ではなく、法が求める誠実な協議を堂々と要求できる時代です。

Phase 3 【事後請求】押し切られた後の「立証戦略」

たとえ明確な合意なく作業を終えてしまった後でも、諦める必要はありません。以下の証拠を裁判基準で構造化し、請求を行います

「質的・量的変化」を裏付ける4つの柱

現在の作業が「微調整」ではなく、当初の目的達成のために「大幅な変更」を伴うものであることを、2.で示した4つの証拠(図面REV履歴、工程表の変化、メール・指示書、作業時間のログ)などで裏付けます 。


請求根拠の優先順位と相当報酬の算定

立証できる証拠の強さに応じて、「契約条項 → 商法512条」の順で請求ロジックを組み立てます。

特に商法512条等に基づき追加費用を請求する場合、「いくらが妥当か」が最大の争点です。当事務所では以下の算定モデルを組み合わせ、貴社の利益を最大化する論理を構築します。

表:相当な報酬の算定モデル
算定モデル 計算の考え方 適用シーン
実費精算型 実際の工数 × 時間単価 詳細な作業ログが揃っている場合
市場価格型 同種業務の市場相場 特殊な技術や市場価値が明確な場合
契約類推型 当初の単価設定を類推 追加作業が当初の延長線上にある場合
過去慣行型 類似変更時の精算実績 長年の取引で精算ルールが定着している場合

4. 結び:正当な対価の確保が、次なるイノベーションを支える

仕様の曖昧さを突いた「持ち出し」の強要は、単に貴社の利益を削るだけでなく、日本のモノづくりの根幹である「技術への再投資」を阻害する深刻な問題です。

2026年1月に施行された「取適法」は、これまでの「下請けは耐えるもの」という古い常識を打ち破るために生まれました 。委託事業者が誠実な代金協議を拒むことは、もはや「駆け引き」ではなく、明確な「法違反」です 。

「もう、仕方ないと諦める必要はありません」

法的分析は、あくまで解決のための「出発点」に過ぎません 。私は、元メーカー法務部員として培った「現場の言葉」を武器に、貴社の技術的貢献を、誰にも否定できない「正当な利益」へと変えるお手伝いをいたします。

【補論】取適法の適用範囲——貴社は保護対象か?

取適法は、すべての受託事業者を保護するものではありません。以下の要件を満たす中小受託事業者が保護対象となります。

資本金・従業員数の要件

取適法2条5項では、以下のいずれかに該当する事業者を「中小受託事業者」と定義しています。「資本金」または「従業員数」のどちらか一方を満たせば、保護対象となります(たとえば、資本金が5,000万円超でも、従業員が100人以下なら対象となります(製造業の場合))。

対象業種 資本金 または 常時使用する従業員
製造業、建設行、運輸業、サービス業、ソフトウェア業・情報処理サービス業 5,000万円以下 または 100人以下
卸売業 1億円以下 または 100人以下
小売業 5,000万円以下 または 50人以下

※資本金が基準を超えていても、従業員数が基準以下であれば保護対象となります。

対象となる取引類型

取適法が適用されるのは、以下の取引です:

  • 製造委託:物品の製造、加工、修理を委託
  • 情報成果物作成委託:ソフトウェア、設計図面、映像コンテンツ等の作成を委託
  • 役務提供委託:運送、物品の倉庫保管、情報処理などを委託
  • 特定運送委託:トラック運送事業を委託

貴社が対象外の場合でも

仮に取適法の適用対象外であっても、商法512条(相当報酬請求権)や契約に基づく請求は可能です。また、独占禁止法(優越的地位の濫用)や民法の一般原則も活用できます。

貴社が取適法の適用対象となるか不明な場合は、初回相談時に詳しくお伺いします。

「持ち出し」の連鎖を、今ここで止めませんか?

仕様変更に伴う追加費用の回収は、単なる「値上げ交渉」ではありません。貴社の積み上げてきた技術を守るための、正当な権利行使です。
2026年施行の「取適法」は、協議を強制する「手続的権利」と、追加費用を請求する「実体的権利」の2層構造で、貴社の利益を支えます。

  • 「図面Revが多すぎて、どこから手をつければいいかわからない」
  • 「長年の付き合いがあり、強く言えない」
  • 「取適法(新法)が自社に適用されるか、正確に診断してほしい」

現場の言葉と苦悩がわかる弁護士として、最新の取適法や商法512条を武器に、貴社の技術的貢献を「正当な対価」へと変える戦略を共に構築します。

Endnotes
  1. 取適法5条2項4号:「委託事業者は、中小受託事業者に対し製造委託等をした場合は、次に掲げる行為(…)をすることによつて、中小受託事業者の利益を不当に害してはならない。(中略)四 中小受託事業者の給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合において、中小受託事業者が製造委託等代金の額に関する協議を求めたにもかかわらず、当該協議に応じず、又は当該協議において中小受託事業者の求めた事項について必要な説明若しくは情報の提供をせず、一方的に製造委託等代金の額を決定すること。」
  2. 取適法5条2項3号:「委託事業者は、中小受託事業者に対し製造委託等をした場合は、次に掲げる行為(…)をすることによつて、中小受託事業者の利益を不当に害してはならない。(中略)三 中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに、中小受託事業者の給付の内容を変更させ、又は中小受託事業者の給付を受領した後(役務提供委託又は特定運送委託の場合にあつては、中小受託事業者からその委託に係る役務の提供を受けた後)に給付をやり直させること」
    給付の内容変更やり直しは通常追加費用を伴うため、本条項は実質的に費用負担なしの仕様変更・やり直しを禁止するものです。
  3. 商法第512条(相当報酬請求権):「商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。」
  4. 東京地裁令和5年8月29日判決(令和2年(ワ)874号):システム開発契約において、開発計画書に記載されていないサーバー構築作業及びシステム連携作業は、「当初契約の内容となっていたと認めることはできない」と判示。